アンケートの目的

 工業系高校は,これまで産業界と連携を図りながら時代の要請に応える有為な人材の育成に努め,我が国産業界の発展に寄与してきた。中でも,戦後我が国の産業が驚異的な発展を遂げた背景には工業系高校卒業生の活躍に負うところが大きいといわれている。このことは,多くの識者が認めているところであり,工業教育の成果として誇りにしていることである。今後とも,我が国が世界に冠たる工業立国として発展するためには,ものづくり教育を基本とする工業系高校の存在意義は大きく,工業教育に携わる者として,その責任の重大さを痛感しているところである。

 ところで,今我が国の経済は回復基調にあり,製造業を中心に工業系高校に対する求人需要が増加している。また,団塊の世代が大量退職する2007年問題もこの傾向に拍車をかけ,バブル期を彷彿させるような求人状況にある。とくに,工業系高校の卒業生には,ものづくりを担う後継者としての期待があり,各企業は採用を増やす方向にある。この傾向はここ数年続くものと思われ,工業系高校の果たすべき社会的責任はますます大きくなると思われる。まさに,工業系高校は現在の産業界の好業績を背景に存在感が高まり,就職などの出口の面を見ると非常に恵まれた状況にあり,追い風の中にあるといえる。

 しかし,入り口の面についてみると,全県的な少子化による中学卒業生の減少やそれに伴う学校再編,さらには普通科志向により県下の工業系高校の志願者は減少しており,産業界の工業系高校に対する期待とは逆に厳しい状況にある。このことは,工業系高校にとって積年の課題であり,これまでにも数々の提言を受けさまざまな取り組みを行ってきたが,現状は必ずしも十分とはいえない。 

 このような状況のときこそ,工業教育に携わる者は工業系高校の将来像をしっかりと展望し,その在り方を検討するとともに,日頃の着実な教育実践を通してその意義を発信し,工業教育の重要性と必要性を社会に周知する必要がある。

 そこで,県下の工業系高校で組織する岡山県高等学校工業教育協会(以下,県工協という)では,産業界の期待の高まる中,この機をチャンスとしてとらえ,工業系高校の活性化と社会的評価の向上を目指して工業教育基本問題研究委員会を組織し,全県的なアンケートをもとに調査研究を進めた。

 

                         平成19年3月22日

 

                                           岡山県高等学校工業教育協会

                                           工業教育基本問題研究委員会


 

調査方法

(1) アンケート対象

@ 中学校3年生

 県内の中学校を7地区に分割,各地区2校ずつの 14校を抽出,市教育委員会,中学校長会の承認を得て在籍者数18074

の約10%にあたる2068名に実施した。

(※人数については平成17年度「教育行政便覧」から)

 回収数 1263名 回収率 61

A 保護者

 抽出された中学校3年生の保護者に協力を依頼し,実施した。

 実施数 2068名 回収数 539名 回収率 26

B 中学校教員

 抽出された中学校の教員に協力を依頼し,実施した。

(※人数については平成17年度「教育行政便覧」から)

 実施数 465名 回収数 253名 回収率 54

C 工業系高校1・2年生

 県工協加盟校1・2年生に実施した。

(※人数については平成18年度県工協資料から)

 実施数 4360名 回収数 4013名 回収率 92

D 工業系高校3年生

 県工協加盟校,全ての3年生に実施した。

(※人数については平成18年度県工協資料から)

 実施数 2427名 回収数 2329名 回収率 96

E 就職先

 県工協進路指導部会において採用実績のある100社を抽出し,実施した。

 岡山県内 大企業 29社 中小企業  57

 岡山県外 大企業 11社 中小企業  3

 回収数 83社 回収率 83

F 進学先

  県工協進路指導部会の協力を得て平成15年度から3年間進学実績のある4年制大学(国公立・私立),短期大学(国公立・私立),高専(国立・私立),高等技術専門校,大学校121校を抽出,実施した。

 回収数 83校 回収率 69

G 卒業生(就職者)

県工協加盟校8校において,卒業後1年目100,4年目100名の合計200名を抽出し,実施した。

 回収数 58名 回収率 29

H 卒業生(進学者)

  県工協加盟校8校において,卒業後1年目100,4年目100名の合計200名を抽出し,実施した。

 回収数 61名 回収率 31

(2) アンケート方法

アンケートは,マークシート方式と記述式を組み合わせて実施した。

中学校関係には学校訪問を行い,協力をお願いした。工業系高校1・2年生には1学期末,3年生には進路決定が終了したであろう2学期末に各校HR単位で実施した。進路先(就職先・進学先),卒業生(就職者・進学者)にはアンケート用紙を郵送し,実施した。

分析・提案(9種類のアンケートから見えてきたもの)

分  析

工業系高校の志望者は多い

 中学校関係アンケートから,県下中学校3年生の工業系高校進学希望者は全体の16%と,専門高校の中で最も高い値となっている(図1)。一方,岡山県教育行政便覧によれば,工業系高校在籍者の全高校生に占める割合は11.4%であり,両者の単純比較では,工業系高校を希望しても入学できなかった生徒が約5%いることになる。



 

在校生・卒業生の満足度は高い

 在校生アンケートから,約70%の生徒が高校生活に対して「十分満足」または「まあまあ満足」と答えている(図2,3)。1・2年生よりも3年生の方が高校生活に対して満足度が高いことについては,3年生の進路についての満足度が高いことの反映ではないかと考えられる(図4)。また,「ものづくり」「資格取得」「部活動」などに意欲的に取り組んでいる姿がうかがえる。卒業生アンケートからは,在校生と同様に,工業系高校を卒業したことについての満足度の高いことがわかる(図5,6)





企業の期待が大きい

 進路先企業へのアンケートから,採用予定は,今後数年間は現状維持または増加傾向と答えた企業が87%にも上り,10年後についても73%の企業が同様に回答している。いずれも減少傾向と答えた企業はなく,工業系高校卒業生への期待の大きさがうかがえる結果となっている(図7,8)。これは,景気が回復傾向にあることや団塊の世代の大量退職が始まる2007年問題や,技能の伝承といったことが背景にあると考えられる(図9,10)






見えてきた問題点

○ 在校生の33%は工業系高校への進学を希望していなかった。

 

 工業系高校を志望している中学校3年生は16%(図1)と,募集定員を大きく上回っているにもかかわらず,実際に入学した生徒のうち,17%の生徒が他学科を志望し,16%の生徒がどこでもよかったという状況である(図11)。

 



 

     電気系,建築系などに入学者の定員割れが起こっている。

工業系高校を志望している中学校3年生が,そのまま工業系高校を受験すれば募集定員を大きく上回るはずであるが,全体の志願者数とは裏腹に,ここ数年,電気系,建築系などの志願者の減少傾向が見られ,定員割れを生じている。

 

その理由は

     高学歴志向による根強い普通科希望傾向

   少子化による大学への進学希望者全入時代を迎え,高学歴志向に拍車がかかっている。もちろん工業系高校からでは進むことの難しい大学や就職先もあるが,進路決定を先延ばしにしている者を含め,普通科志向が強い。

     高校入試制度(自己推薦入試,中学区制),高専との競合

   近年改革された高校入試制度が,生徒の志望校決定に影響を与えていることは間違いないであろう。また,地域により状況にかなり差があるが,工業系として明らかに高専と競合している。

     ものづくり体験の不足

時代が変わって,子ども達が遊びの中や生活の場でものづくりに親しむ機会が減り,ものづくりの楽しさやおもしろさを知らない状況が進展しているのではないかと推察する。

     情報提供の不足

 中学校3年生とその保護者の約40%が,工業系高校のイメージが「わからない」と答えたり,無回答であった。また,中学校3年生の約40%が工業系高校から大学に進学していることを知らないと答えている。国公立大学への進学にいたっては70%の中学校3年生が知らないなど,工業系高校の大学進学状況が正確に認識されていないことがわかる(図12,13)



 



 

 これらのことは,外的要因によるものもあり,我々の努力のみで簡単に解決できるものではないが,工業系高校の実態を知ってもらえていないことについては,これまでの広報活動を見直し,周知を図ることによって改善が十分期待できると考える。

 

広報(活動・方法)の再検討が必要

 広報活動が様々な方法で行われているにもかかわらず,中学校関係者などに情報が十分伝わっていない状況を解決するためには,これまでにも増して中学校関係者ときめ細かいコミュニケーションをとることが必要ではないだろうか。また,近年,進路決定に保護者の意向が強く反映されている傾向が見受けられることから,保護者に向けての直接的な広報活動の必要性を感じる。さらに,報道機関への情報提供の在り方など様々な工夫が,これまで以上に必要であると考える。

 

提  案

 分析の結果,最重要課題として広報活動についてのみ取りまとめたが,本委員会としては,工業系高校のより一層の活性化と社会的評価の向上のために,各会員個人で,会員間で,各学科間で,学校全体で,さらには県工協全体として,次に示す「よりよい生徒を迎えるためには」「よりよい生徒を育てるためには」「よりよい進路先を確保するためには」の3点に焦点を当てて協議し,実践していただくことを提案したい。








 

具体的な取組に向けて

(1)広報活動の充実のために

@ 広報活動の必要性

1)広報活動を行う対象

2)広報活動で伝えるもの

A 各校ホ−ム ペ−ジの充実・活用

B 学校説明会の充実

   1)校内外での開催

2)時期・回数の工夫

3)中学校3年生と保護者

C 学校開放の工夫

1)学校開放日・オープンスクール・文化祭

  2)校内でイベントを開催

D 地域との連携重視

   1)キャリア教育推進と連動

  2)地域イベントへの参加

(2)工業系高校のあり方・充実のために

@ 専門教育を中心にした学習活動の充実

1)学習内容の精選

2)教員の指導技術・能力向上・技能の伝承

3)生徒間の切磋琢磨

A 美化意識の高揚

1)5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の習慣化

2)校内清掃・個人所有物の整理整頓の習慣化

3)自主的な地域清掃活動への参加

B 健康づくりの取組

1)体の健康づくり

2)心の健康づくり

C 生活マナー意識の高揚

1)社会のルールの遵守

2)時間厳守

3)挨拶

4)身だしなみ

5)自主・自立の意識

6)思いやり・仲間意識

D 実習施設設備の充実や環境整備

E 専門教科の新採用枠の拡大、教員数の増加

(3)進路先との連携のあり方

@ 就職先との綿密な連携

1)インターンシップ、デュアルシステムの要請

2)企業見学(生徒、教員)

3)社会人講師の要請

4)企業との懇談会の開催

A 進学先との綿密な連携

1)オープンキャンパスの活用(生徒、教員)

2)高等学校開放への進学先の参観依頼

3)進学先との懇談会の開催

4)高大連携

(4)全県的な工業系高校としての連携

@ 岡山県高等学校工業教育協会の更なる充実

A 基礎的・基本的な技術・技能の向上から高度で先進的な技術力の探求

1)企業、進路先とタイアップした研修会開催

2)長・短期間の教員企業研修

   3)各事業の利用